平成27年11月定例県議会 発言内容(山岸喜昭議員)
◆山岸喜昭
課題の多い長野県の林業ですが、これからの林業の振興、また担い手の育成についてお尋ねします。
本県は、戦後一斉に植林され、県土の8割を森林が占める森林県であります。森林資源の成熟に伴い、計画的な森林整備の推進や低コストで生産性の高い搬出技術の確立、木材の安定供給体制の構築が重要な課題となっております。
県におきましては、しあわせ信州創造プランでは、森林を生かす力強い林業・木材産業づくりを「産業・雇用」に関する施策の柱に捉え、県産材を効率的、安定的に供給する基盤づくりなどによって充実した森林資源を有効に活用することにより、地域を支え、持続的に発展する競争力の高い林業・木材産業の構築を目指すこととしております。
森林の蓄積は年々増加しており、戦後から植栽してきた森林を育てる時代から、再生可能な地球に優しい資源として森林を活用する時代に移り変わってきております。森林資源の成熟に伴い伐採や搬出等の施業が中心になってきているとともに、森林吸収源対策を進めるため、民有林だけでなく、国有林等における森林整備事業も急増しております。
また、森林所有者の不在化や高齢化、世代交代が進むにつれ、みずから施業や経営を行うことができない森林所有者が増加していることに加え、森林に対する国民のニーズが多様化する中において地域の森林の適正な管理が求められている状況であります。
このように、各地域における森林整備や森林管理を推進していくためには、本県の林業の中核的な担い手である森林組合を初めとする林業事業体が森林所有者に対して経費負担を抑えた施業提案を行い、森林施業の集約化を進めるとともに、高性能林業機械の導入等による生産性の向上、県産材の安定供給体制の構築に積極的に取り組み、長期的な事業量の確保と経営の安定を図ることが必要であります。
これに加えて、地域の雇用の受け皿として人材の受け入れ態勢の整備を進めて新規雇用者を確保し、通年雇用等の雇用条件の向上により担い手の定着を図り、高性能林業機械による生産性向上等に対応できる高度な技術者を育成するなど、林業の担い手の確保が重要な課題であります。
この10月に策定された長野県人口定着・確かな暮らし実現総合戦略においても、「仕事と収入の確保」に関する施策展開の中で林業の競争力強化を位置づけ、林業の基盤整備、搬出間伐の推進、信州F・POWERプロジェクトを起爆剤とした県産材生産体制の強化、林業先進国との技術交流等を推進していくこととしていますが、今後、県として、これらの施策を推進していく前提として林業・木材産業を支える担い手の確保と育成が急務であると考えます。
来年6月には全国植樹祭が本県で開催されるほか、全国林業後継者大会もあわせて開催されるなど、林業、森林に対する県民の関心が高まっていることを契機に、本県の林業の将来を支える担い手の確保育成が進むことを強く期待するところでありますが、これからの林業の担い手について林務部長にお聞きします。
まず、本県の林業就業者数の推移についてですが、平成15年度には3,000名であった本県の林業就業者数は平成25年度には約2,000名と大きく数を減らしております。これから平成32年には本県の素材生産量を平成23年の2.5倍に当たる75万立方まで増加させる目標のもと、搬出間伐の推進と木材の利用拡大に取り組まなければならない本県におきまして、この現状をどのように分析されるのか。お聞きします。
◎林務部長(塩原豊)
林業の担い手の確保育成につきまして、林業就業者の現状分析についてのお尋ねをいただきました。
本県の林業就業者数は近年減少傾向にあります一方、通年雇用の目安であります年間210日以上就業した方の割合は平成15年度の約4割から平成25年度には約6割へと増加しております。
また、新規の林業就業者数は、近年、年間150人前後で横ばいに推移しており、林業就業者全体の平均年齢は平成15年度の50.8歳から平成25年度の47.6歳へと若返りが着実に進んでおります。
このほか、植栽、下刈り、枝打ち、間伐等の保育作業に主に従事する方の数は減少しておりますが、一方で、木材を伐採して搬出する素材生産の作業に主に従事する方の数は増加しております。
このような状況の中で、本県の素材生産量は着実に増加しており、平成32年における素材生産量75万立方メートルの目標達成に向け、より一層の林業就業者の確保が必要であると認識しているところでございます。
◆山岸喜昭
続いて、新たな林業の担い手の確保についてお聞きします。
本県では、林業後継者及び林業指導者を養成するために、昭和54年に長野県林業大学校が設立されております。林業大学校が設立されてから36年が経過し、森林・林業を取り巻く情勢も大きく変化してきておりますが、近年では女子学生も増加しているとのことであります。
そこで、林業大学校の林業後継者や林業指導者養成について、近年の入学状況と特徴的な取り組み、就職状況等についてお聞かせください。
近年、大規模な木材加工施設や木質バイオマス発電施設の整備が進むなど木材需要が増大しており、素材生産を行う人材や持続的な森林経営を担う人材の育成が求められております。こうした中、これからの林業を支えるためには多くの若い林業就業者の力が重要であると考えるところですが、県内において新規林業就業者を確保するために行っている取り組み状況についてどのようにされるか。お聞きします。
次に、林業就業者の育成についてであります。
林業の活力を維持していく上でも、確保した人材の育成は欠かせないものであります。林業に就業した若者が地域に定着し、長く林業に就業していくためには、林業、森林に関する知識と技術を身につけていくことと新時代の社会の要請に対応できる教育が重要であります。
特に、木材を育てる時代から活用する時代を迎える中、林業の現場における作業は細分化、複雑化しており、より一層の労働安全性の確保と高度な技術を身につけることによる生産性の向上を図ることが林業就業者に求められております。そのために林業就業者の育成にどのように取り組んでいかれるか。林務部長にお聞きします。
◎林務部長(塩原豊)
御質問にお答えいたします。
まず、長野県林業大学校の状況についてのお尋ねですが、入学状況を見ますと競争率がおおむね2倍程度の中で毎年定員の20名が入学しておりまして、近年は女子学生がふえており、現在、在校生40名のうち女子学生は4分の1を占めております。
林業大学校での特徴的な取り組みといたしまして、平成25年度から、卒業後即戦力となります、より実践的な技術者を育成するために、森林資源を活用するコースや木材利用コースなど、進路に応じたカリキュラムを選択できるようコース選択制度を導入いたしました。また、2年次には林業の先進国であるオーストリアへの研修を行うなど、海外へ視野を広げるための取り組みも行っております。
直近5年間の卒業生の就職状況ですが、素材生産、製材加工といった民間企業に43%、森林組合に22%、林業職の公務員16%等となっておりまして、林業・木材産業分野に多くの学生が就職して活躍しているところでございます。
次に、新規の林業就業者確保の取り組みについてのお尋ねですが、新規就業者の確保とその後の育成につきましては県では長野県林業労働財団と連携して取り組んでおります。
まず、林業就業を希望される方に対して林業に関する情報を提供する取り組みとして、県内の林業事業体と連携しました共同就職説明会を年2回開催し、昨年度は参加者143名のうち32名が採用されるなどの成果を上げております。
このほか、県外におきましても、本年5月には、初めての試みとして、首都圏の林業就業希望者を対象に、本県の林業の魅力や林業就業についてPRするためのセミナーを銀座NAGANOで開催をいたしました。
また、国の事業を活用した林業就業支援講習や3カ月間のトライアル雇用制度など、実際に林業の現場を経験し、林業への適性をみずから確認できる取り組みを進め、新たな林業就業者の確保に努めているところでございます。
次に、安全性の確保と生産性の向上に向けた林業就業者の育成についてのお尋ねですが、平成15年度から、林業労働財団が国の緑の雇用事業を実施する中で、新規就業者を対象に基本的な技術を習得させる3年間の研修など、研修生の経験に応じた段階的、体系的な研修を実施しておりまして、昨年度までの12年間で延べ約1,200名が研修を修了しております。
また、県では、安全で効率的な作業を実施できる現場の技術者を育成するために、林業総合センターにおいてチェーンソーや架線作業に関する講習を実施しているほか、林業労働財団と連携して高性能林業機械のオペレーターを養成しているところでございます。
今後におきましても、これらの取り組みによりまして、本県が林業県として発展するための原動力となります林業の担い手の確保と育成に努めてまいります。
以上でございます。
◆山岸喜昭
ありがとうございました。
次に、知事におかれましては、今回、オーストリア、スイスを訪問されまして、海外の国々との安定的かつ将来的な友好交流の推進は最も重要であります。今回も、長野県知事がトップセールスとして、また議長初め県議会の皆さんと、交流をあわせ、ともに訪問できたことは、長野県とオーストリア、スイスにおける新たな地方間交流関係の構築を図るための大変意義ある訪問であると捉えているところであります。
今回は、林業や自然エネルギー利用、文化芸術の分野で先進的な取り組みを展開しているオーストリアと山岳観光の先進地であるスイスと長野県との国際交流関係を構築するために視察され、本県の林業再生に向けて、県では、新たな価値観を持った人材育成を図るために、林業の先進地からそのノウハウを学ぶことを目的としているところであります。
林業技術の連携について、政府機関との今後の交流や技術連携に関する覚書の締結や、さまざまな事例の調査等を実施されてこられました。担い手が先進的な技術を海外の現地で研修等を行うことは、今後、林業の新たな時代を築いていく若い世代にとって大いに刺激になるものと思われます。
また、スイスにおいては観光行政関係者との交流を図り、登山鉄道やロープウエーなど、まさに山岳観光の先進地でもあり、このようにグローバル化が進む中、明確な考え方や意識を持ちながら人材育成や地域活性化など複合的な視点を持ち、組織の連携を図りつつ事業展開が必要と思われます。
今回、オーストリアとスイスを訪問された成果を、今後の長野県の林業、山岳観光にどのように生かしていくのか。知事にお聞きします。
◎知事(阿部守一)
オーストリア、そしてスイスに訪問した成果、今後の林業あるいは山岳観光にどう生かすかという御質問でございます。
まず、オーストリアへの訪問でございますけれども、オーストリアでもさまざまなことを学んでまいりましたが、一つは、本県と似た条件でありながら、高い密度の路網の整備、そして高性能林業機械の活用、さらには、すぐれた技術者の育成で極めて高い生産性を実現していること、そして、CLT(直交集成板)等新たな技術によって大規模な木造建築がつくられていること、さらには、木質バイオマスを利用して地域熱供給システムが活用されていること、さまざま木材を中心とした地域経済の循環が進められているということを実感をしてまいりました。
提案説明で申し上げましたように、オーストリア政府、農林環境水資源管理大臣と技術交流に関する覚書を締結いたしましたので、今後、林業あるいは木質バイオマス関係の技術者の相互訪問あるいは先進技術の情報交換等、より具体的、実践的な交流に進めていきたいというふうに思っています。
こうした交流によりましてオーストリアの先進的な取り組みをしっかり学んで長野県の林業に生かさなければいけないと思っておりますが、木材の生産という観点で申し上げれば、高性能の林業機械など先進的な技術を最大限活用した高効率な木材生産システムを長野県においてもしっかり形成していかなければいけないというふうに思っております。
また、利活用という観点では、バイオマスのエネルギーを使う上では、発電も必要ではありますが、あわせて熱利用という観点が極めて重要だというふうに思っておりますので、地域主体の熱供給システムのモデルづくりを考えていく必要があるというふうに思っております。
また、日本では、大規模建築物、ほとんど鉄筋コンクリートなど非木質素材でありますが、こうしたものに対抗できる新たな木材利用技術の研究開発、これは日本全体でも進められておりますが、長野県もこうした動きにおくれをとらないように取り組んでいかなければいけないというふうに思っております。
こうしたことを通じて、本県の林業再生に向けた取り組みをさらに進めてまいります。
それから、ツェルマットでございます。ツェルマットでも私としても非常に学んだことはいっぱいあります。今回、地方創生の中でも地消地産ということを言っておりますが、ツェルマットは地域内はガソリン自動車乗り入れ禁止という状況でありますが、電気自動車も地域内で生産をされているというお話を聞いてびっくりいたしましたし、また、ふだん地域で消費される食材等も基本的には地元のものを選んで購入されるという地消地産、地産地消の意識が徹底されております。
また、さまざまな観光地でも世界各国から大勢の観光客がお越しになられている地域でありますが、お金を使ってもらうための仕組みがかなり徹底されているなということを感じました。ロープウエーで上がった3,800メートル級の高いところのレストハウスでありますが、トイレに入ると2スイスフラン払って領収書をもらうと、その領収書が売店で使えるということで、もらうと何か買い物をしないと損をするような気分になります。さまざまな工夫がなされていることも実感をしました。
今後、長野県として、こうした観光地と競争、そして連携していかなければいけないわけであります。私とすれば、例えば、今回、ブルガーゲマインデ、地域共同体の皆様方ともお話してきましたけれども、単に観光という観点だけではなくて、地域づくりと一体となった観光地域づくりを進めていくということが極めて重要だというふうに考えておりますので、そういう意味で観光地域づくりの主体となるDMO、県としても取り組むし、またそれぞれの地域の取り組みを支援していくということをしっかり取り組んでいきたいと思いますし、また、マーケティングの重要性、スイス・ツェルマット以外にも山岳高原観光地ありますけれども、山田桂一郎さんからも私もいろいろお話を聞きましたけれども、それぞれの地域の特性を生かして、セグメント分けしてリピーターを確保するような取り組みをされています。
長野県もさまざまな観光地がありますが、例えば上高地と野沢温泉とあるいは軽井沢、それぞれマーケットが違っている部分があると思いますが、そうしたこともしっかり分析をしながら観光行政を進めていくということが必要だと思っております。
こうしたことを進める中で、ぜひ世界水準の山岳高原観光地をしっかりと長野県から発信をしていきたいというふうに思っております。
いずれにいたしましても、既に市町村もこうしたスイス、オーストリアとさまざまな交流をしているところでございますので、長野県としても、視野を世界にしっかりと持って、世界の観光地、あるいは林業政策に負けないような取り組みを進めていきたいと考えております。
以上でございます。
◆山岸喜昭
大分成果があったようだと思われます。林業の振興、また担い手について、今後、林業の先進国との新たな覚書に基づいて、林業生産システムや木質バイオマス利用を含めた木材利用システム等を参考に積極的に取り組んでいただき、信州の森林は命の源であり、この恵みをもっと生かし、その輝きを次世代へ引き継いでいくことに期待して、質問を終わります。