平成27年11月定例県議会 発言内容(依田明善議員)


◆依田明善

   

 本年最後の一般質問になりました。いましばらくの御静聴、お願いいたします。

 ものづくりにおける人材育成について順次質問いたします。

 国産初の小型ジェット旅客機、MRJが初飛行を成功させました。日本航空は既に愛知県に本社のある三菱航空機と契約を結んでおり、各地をMRJで結ぶ計画を立てているようであります。

 また、世界の民間航空機市場は今後数百兆円という需要が見込まれているということでありますので、ぜひとも世界中から大きな信頼を得て、5,000機とも言われる小型ジェット機のシェアを独占するような気概を持って頑張っていただきたいと思います。

 しかし、そのためには当然ながら技術力を高めていかなければなりません。MRJに使用されている部品は約95万点、そのうちの約3割は日本製です。3割というと少ないように思われますが、グローバル経済の中で大事なのは、世界中から安価で実績のある部品を集め、より安全性の高い機体を量産して採算ベースに乗せることであります。しかも、自動車と比較しても製造台数は遠く及びませんが、部品点数の多さでは自動車の実に30倍とも言われております。したがって、部品製造については莫大な資金力が要ることですから、余り焦らずにじっくりと国産比率を高めていくことが重要だと思います。

 さて、その部品製造における技術者の卵を育成する工業高校等の実態に目を向けてみたいと思います。工業高校を卒業しましたと聞きますと、さぞかし腕の確かな技術者であろう、そんなイメージを私は抱いております。ところが、企業関係者などと定期的に意見交換する中では厳しい意見等もあります。

 例えば、工作機械の代表格である旋盤やフライス盤です。実際の現場ではコンピューター制御のMC旋盤等が主流ですが、手づくりの技術をきわめることにより、最新鋭の機械にその技術感覚をフィードバックさせるという役割もあり、決して侮れるものではありません。パソコンやスマホを使いこなすには読み書きの知識と技術が必要ですが、それと同じことであると私は理解をしております。

 その基本的な旋盤やフライス盤などの技術レベルについても不満を持っている企業人も多く、長野県の工業高校のあり方を考え直してほしい、愛知県あたりのレベルをよく見てほしいといった指摘もされ、信州のものづくりに危機感を抱いておるわけであります。

 もちろん、中には卓越した技術を持った方もいるでしょうが、そういった優秀な卒業生は大手企業に就職してしまう率が高いとも言われており、人材確保の面においても不満があるようです。

 愛知県といえばMRJの製造、販売を手がけている三菱航空機の本社があり、何よりもトヨタ自動車の本拠地でもあります。ですから、その地域の工業高校ともなれば、まさに即戦力がより一層期待され、先生や生徒のモチベーションも高くなるのは容易に想像がつきます。

 本県においても、アジアナンバーワン航空宇宙産業クラスター形成特区に参加している飯田市の多摩川精機は、長野技能五輪にも頑張って選手を輩出しました。その若き雄姿がいまだに脳裏に残っておりますが、やはり周囲の環境というのは大きいと思います。

 実際、愛知県内のある工業高校を調べてみましたら、毎年の技能検定の合格人数が細かく公表されており、検定内容によっては受検した生徒の100%が合格、難易度の高い検定にも80から100%が合格という内容でありました。

 この高校の教頭先生がおっしゃるには、まず基本的に愛知県が人材育成に積極的に取り組んでいること、そして教員に就任してから5年前後の若い先生方が率先して技能検定にチャレンジしており、結果として生徒の皆さんもそれに続くといった良好な流れがあるということでありました。

 こういった全国の工業高校の状況をどこまで把握しておられるのか。そして、長野県内の工業高校における技能検定の受検率、合格率を初め、卒業生における資格取得者の占める割合等をどこまで把握され、その状況に対してどのような御見解をお持ちになられているのか。教育長にお伺いをいたします。

  

◎教育委員会教育長(伊藤学司)

 

 全国と県内の工業高校の技能検定受検合格等の状況についてのお尋ねにお答えを申し上げます。

 全国の状況につきましては、個々の学校の状況までは把握をしてございませんが、例えばさまざまな資格や検定、コンテストの入賞実績を点数化したジュニアマイスター顕彰制度の各都道府県の結果で見ますと、熊本県、福岡県、長崎県など九州地方の高校が上位を占め、次いで愛知県の高校が高い状況になっていると承知してございます。

 長野県内の工業高校におきましては、近年、技能検定の取得に対する意識が高まってきており、平成24年度と比べ26年度は合格者が1.7倍になるなど増加をしてきてございますが、その数はまだ十分ではないと認識をしてございます。

 なお、技能検定以外のものを含めますと工業高校の生徒は卒業までにほぼ全員がそれぞれの学科の特性にあわせ、電気工事士、危険物取扱者など何らかの資格を取得していると承知をしてございます。

 技能検定等の資格取得に取り組むことは、生徒の学習意欲を高めるとともに、専門的な技術、技能の習得を図る上で有効であるというふうに認識しているところでございます。

 以上でございます。

  

◆依田明善

 

 御答弁いただきました。

 やはり、本県の工業高校においても技能検定に対する組織的な取り組みが必要だと思います。そして、特に工業高校においては、師匠と弟子、この師弟関係の構築が重要ではないでしょうか。卒業したら、はい、さようならではなく、いつでもどこでも技術の向上を目指して師弟がつながっているということになり、ひいては我が国の工業の発展に大きく寄与することになろうかなというふうに思います。

 外部講師に定期的に指導を賜る、これも非常に重要なことです。しかし、外部講師は企業で働くことの厳しさや心構え、あるいは高度な技術等を教えるというのが本筋です。生徒に実技指導をするのはあくまでも学校の先生であり、その対価として給料も得ているわけですから、みずからも検定等に挑戦し、資格を取るぐらいの気概は持ってしかるべきだと思います。

 こういった師弟関係の構築や教師の役割に対して教育長はいかがお考えでしょうか。

 また、この技能検定においては、練習時間も要しますが、お金もかかります。ある受検生によりますと、受検料のほかに、練習用の教材費や参考書など合わせて十数万円の費用がかかったとお聞きしました。これらを生徒や先生に全て自費で負担させているというのが現状のようですが、これも技能検定に目の向かない理由の一つだと思います。

 多くの皆さんに平等に受検のチャンスを与えるという意味において、県としても何らかの助成ができないか。教育長にお伺いをいたします。

 ある現役の外部講師からお話をお聞きしましたところ、今まで学んできた知識や実習だけでは企業では通用しないということがよくわかった、これからは失敗を恐れないで技能検定にも挑戦したいとある生徒が授業の感想を述べたそうです。

 また、技能検定を受ける過程の中で、技術も磨かれるが、礼儀も身につき、人間的にも成長する生徒が多いともおっしゃっておりました。

 さらに言えば、知力と精神力の向上です。3年前、本県で行われた全国技能五輪を連日見学した際に感じたことですが、例えばフライス盤の競技においては、制限時間5時間15分の中で100分の1ミリの精度を求めて精密部品を仕上げなければなりません。幅、高さ、間隔など、暗記をしなければならない数値も実に600カ所以上、途中で数字を間違える、数字を忘れる、加工の順番を間違えるなどしますと選手は一気にパニック状態になってしまいます。そんなときに、冷静さを取り戻し、何とか最後まで競技を続行できる選手もいれば、落胆して諦めてしまう選手もいます。まさに知力と精神力が問われるわけであります。

 また、体力も重要な要素であります。ある中小企業の社長は、技術があっても体力のない者は選手として養成しないということで、地元で開催される78キロの競歩大会での時間内完走を一つの条件としております。

 ただし、これはあくまでも技能五輪での話であり、通常の技能検定はそこまでハードルは高くありません。ですから、特に工業高校においてはより多くの生徒に挑戦していただきたいと思いますが、それには学習のカリキュラムを考えていく必要があると思います。例えば、技術理論や経済、法律などを扱う総合学科のような幅広い学習も必要ではあります。ただし、教科書に沿って授業を進めるいわゆる机の上の勉強であり、実践教育とは別物です。

 したがいまして、工業高校と名乗るからには、総合学習よりも実践力向上に重きを置くカリキュラムに再編成を行う必要もあると思いますが、本県ではそのバランスはどのような比率になっているのか。

 また、実践教育が不足しているとすれば、教育委員会として何らかの指導をしていくべきだと思いますが、教育長に御見解をお伺いいたします。

 また、企業側における受け入れの実情や企業側の率直な声をどのようにお聞きになられているのか。

 また、社員の検定受験や技能五輪出場等に際し、数百から数千万円の身銭を切って工作機械を購入し、御尽力されている中小企業の社長さんなどもおられます。県として何らかの助成を考えていらっしゃるのか。産業労働部長の御見解をお聞かせください。

 そして、阿部知事には、信州のものづくりにおける人材育成を単にかけ声だけで終わらせないための御決意をお伺いしたいと思います。

        

◎教育委員会教育長(伊藤学司)

 

 工業科の教員の役割についてのお尋ねにお答えを申し上げます。

 ものづくりは、長年にわたって蓄積された技術、技能をきわめ、それを伝えていく世界であり、工業高校はそのための基礎・基本を学ぶ場でもございます。

 工業科の教員の役割は、みずから生徒に手本を示すとともに、生徒一人一人の学習状況を把握し、それに応じて適切な指導を行うことであり、指導力向上のため絶えず自己研さんしていくことが求められると認識をしてございます。

 現在、工業科の教員は、高大連携を利用し大学の教員から最新技術について直接学んだり、企業の技術者を講師として招いたものづくり技術講習会やものづくり交流会などに参加し技術の向上を図ったりしていると承知をしてございます。

 県教育委員会としても、先端技術研修を実施し、職業科目を担当する教員を民間企業等に派遣し最先端の知識や技術を習得させるとともに、こうした教員が講師となって他の教員に研修成果を普及することで全体の指導力向上に努めているところでございます。

 次に、技能検定に対する助成についてのお尋ねでございます。

 県教育委員会では、技能検定のみならず英語検定など個人が取得する資格の検定料については個人が負担するという立場に立っており、現在のところ補助は行っていないところでございます。

 しかしながら、ものづくり県長野を支える人材を育成するという観点から、資格取得を促進する方策の一つとし、他の都道府県の状況なども調査しながら、技能検定などの検定料の助成についても研究してまいりたいと考えてございます。

 なお、ものづくりマイスターが技能検定の課題等を活用して生徒に実技指導を行う、厚生労働省のものづくりマイスター派遣事業では講師の派遣とともに材料費の補助を受けることができるところでございまして、こうした制度を積極的に活用して練習を積み、技能を高め、技能検定を受ける生徒がふえるよう働きかけてまいりたいと考えております。

 次に、実践教育に重きを置いたカリキュラムについてのお尋ねにお答えを申し上げます。

 産業界からの御意見をお聞きしますと、高校段階ではより実践的な専門性を身につけてほしいとおっしゃる考え方の方もいる一方、高校生としての共通の学力と専門性の基礎・基本を幅広く学んでほしいという考えもあり、多様な意見が寄せられているところでございます。

 今後の知識基盤社会に対応する汎用性のある学力を育むとともに、生徒の状況に応じた専門的な技術、技能を身につけさせるために、工業高校においては工業に関する授業の半分以上を実験、実習に充てているところでございます。そうした授業の中で、総合教育センターでの先端的な機器を用いた実習、ものづくりマイスターによる校内実習、デュアルシステムを活用した企業内実習などを行い、実践的な教育の充実に取り組んでいるところであり、今後ともこうした実験、実習の充実に努めてまいりたいと考えております。

 以上でございます。

 

◎産業政策監兼産業労働部長(石原秀樹)

 

 お答えいたします。

 まず、現場の声ですが、県の調査によりますと、県内の製造業者で技術系社員が不足していると感じている事業所は49%と約半数を占めております。

 また、企業が、採用時、技術系社員に求めるものは、会社や仕事に対する熱意、基礎的な技術、知識のほか、コミュニケーション能力なども挙げており、技術や技能のほかに社会人としての基本的な知識が求められております。このほか、若い人が職人になりたがらないとか、小学校、中学校のときからものづくりはおもしろいと感じさせる教育が必要といった意見が寄せられております。

 次に、技能検定受検等に対する支援でございます。

 技能検定につきましては、昨年度、約4,800名が受検しております。また、きょうから幕張メッセで開催される技能五輪全国大会には県内から51名が出場しております。

 選手等の育成につきましては、昨年度から技術専門校にスキルアップ講座を38コース設けまして、若者の技能や競技力の向上を支援しております。また、熟練技能者であるものづくりマイスターを中小企業に派遣して若年技能者に対する個別的な実技指導も実施しているところでございます。

 また、全国大会出場者に対しましては、職業能力開発協会から参加費や旅費、道具の運搬費などに対する支援もございます。

 議員御指摘のように、技能検定、各種競技会を通じて社員一人一人の技能を高めるとともに、技能者の社会的地位を向上させることは、ものづくり産業の発展にとって重要なことと考えます。引き続き、このような取り組みを推進し、本県の産業界を支える人材の育成を図ってまいりたいと考えております。

 以上でございます。

 

◎知事(阿部守一)

 

 ものづくり人材の育成に対する決意という御質問でございます。

 まず、依田議員からは、この分野についての参考となる御質問、御意見をいただけたというふうに受けとめております。

 若い人たちの人生を豊かなものにする上でも、そして、ものづくり産業を中心に発展してきた長野県のこれからの産業や地域を考える上でも、若い世代のものづくり人材の育成は極めて重要だというふうに改めて感じています。

 今般策定した総合戦略の中でも、職業高校におけるデュアルシステムの導入、拡大、あるいは信州ものづくりマイスターの高校への派遣、こうした高校段階におけるものづくり人材の育成を位置づけておりますし、また南信工科短大の来春開校に向けた準備を進めるなど、人材育成、これまで以上に力を入れて取り組んでいこうというふうにしています。

 ただ、これまで職業教育の分野は何となく教育委員会の専管事項というような感じで、必ずしも私どもと教育委員会との連携が深まっていなかった部分もあるんじゃないかというふうに思っています。

 先般、第2回の総合教育会議を開催して、私のほうからは、ぜひ、職業教育、産業人材の育成の部分についてしっかりと一体で取り組んでいきましょうという問題提起をさせていただいたところであります。

 私どもとしては、産業界であったり、あるいは社会のニーズを比較的しっかり受けとめてきていますので、そうした社会の要請とそれから教育委員会がこれまで取り組んでこられた職業教育におけるノウハウ、こういうものをしっかりと融合させることによって、長野県の職業教育、産業人材の育成がさらにレベルアップするように取り組んでいきたいというふうに思っています。

 以上です。

 

◆依田明善

 

 御答弁いただきました。

 先進国の定義はいろいろだと思いますけれども、その一つに、自国の需要を自国の企業、人材、政府で満たせる割合が高い国というのがあります。そう考えますと、自動車などは国産比率が比較的高い、その点でも日本は先進国と言えるのではないのかなというふうに思います。

 また、部品を輸入する場合においても、膨大な部品の安全性や機能性を見きわめる眼力は絶対に必要だと思います。したがって、その眼力を養うには、みずからも技能検定などに挑戦して多くの経験をしておくこと、やはりこういった実践経験が重要になろうかと思います。

 企業のものづくりを県が後押しするといっても、工業高校生の一部だけでなく、より多くの生徒を金の卵に育てなければ工業系の県内企業の発展はありませんし、発展がなければ人も満足に雇えない、雇う会社が少なければ若者もふるさとに帰ってこない、人がふえないということになります。

 また、雇用者や指導者側に高度な技術がなければ、日本人労働者を初め、外国人研修生等にも指導ができません。こういった懸念は、工業だけでなく、土木建設業や農業においても深刻の度合いが日に日に深まっているというふうに私は感じております。

 ものづくりの裾野を広くし、産業の空洞化を防ぐには、日本の若者に夢を与え、愛情を持って手厚く育てることが大切だと思います。

 ぜひとも、そのことを念頭に、手に職を持ちたいと思う若者がふえるような思い切った施策の展開を切に希望いたしまして、私の質問を終わります。御清聴、ありがとうございました。