平成27年 9月定例県議会 発言内容(依田明善議員)
◆依田明善
順次質問いたします。
大北森林組合の問題、これにつきましては多くのゆゆしき問題が発覚しました。先日、阿部知事も、原因を徹底的に究明し再発防止に努める決意を述べられたところであります。
今、多くの若者がようやく林業に魅力を感じるようになり、就業者数も伸び始めているわけであります。これは、とりもなおさず、行政、あるいは森林組合など事業者の気の遠くなるような努力がやっと実を結んできたということだと思います。そこに冷や水を浴びせてしまった今回の問題は、県民はもちろんのこと、情熱を持って真面目に努力してこられた関係者の皆さんを大きく落胆させ、信頼を損ねてしまいました。
阿部知事も、心を鬼にして対応するという表現をされましたが、正直者が損をしないような林業行政システムを一日も早く構築していただくことを強く要望いたします。
さて、それと同じくやはり心を鬼にして取り組んでいただきたいのが、森林整備、森林保育であります。長野県の森林蓄積量は全国3位、こうしている間にも植物である樹木は着実に年輪を重ね、毎年、実に200万立米の成長を遂げております。
異常気象の原因の一つは地球温暖化だと言われておりますが、その原因になるCO2を吸収し、貴重な酸素を供給する機能を宿している樹木は我々生命体の命の源でもあります。しかしながら、伐期を迎えたものは速やかに間伐や皆伐を行い、それらを有効に利活用していかなければなりません。
知事も森林県から林業県へということを強く標榜されておりますが、その構築のための取り組みに対する歩みをとめてはならない、そんな観点で幾つか御質問やら要望をお願いしたいと思います。
森林整備の重要性は今さらながら申し上げるまでもありませんが、このところ地域住民からの要望として多いのが、道路脇の大きくなり過ぎた樹木を整備し景観をよくしてほしいというものであります。
確かに、信州の美しい山々や麓の農山村ののどかな風景などが沿道の大木ややぶなどの過繁茂によって隠れてしまっているケースは至るところで見受けられます。これは観光面や防災面においても好ましくありません。自然はほどよく手を加えることが大切だと言われておりますが、こういった景観的要素の高い道路沿線の森林整備はまさに緊急を要するものだと思います。
しかしながら、国費を利用した間伐補助事業は森林整備を目的としているため、採択要件に合わない箇所が多いというのが現状です。もちろん、景観整備ができる県単独事業等もありますが、予算的には小規模であります。したがいまして、何とかこれらの事業の充実を図っていただき、景観の改善にも力を入れていただきたいと思いますが、林務部長にお尋ねをいたします。
また、道路等が子供たちの通学路である場合は、ふるさと信州寄付金活用事業によるふるさと信州森林リフレッシュ事業も活用できるのかもしれません。しかし、1ヘクタール当たり定額19万円という補助金額が設定されておりますが、道路沿線の森林整備は通行車両や電線等もあり通常よりも経費がかかってしまいます。ぜひとも、こうした整備に対する補助金の増額か、あるいは実行経費に対する補助という形にしていただきたいわけですが、林務部長の見解をお聞かせください。
次に、間伐など森林整備事業の補助要件が示されている信州の森林づくり事業実施要領の規定についてですが、今年度から保育間伐の伐採率の基準に樹冠疎密度が明記されております。
この聞きなれない樹冠疎密度という言葉ですが、これは人口密度を森に例えるようなもので、簡単に言えば一定の面積の中にどれだけの樹木が生育しているのかということであります。
この樹冠疎密度が保育間伐の際に非常に重要視されるようになりました。つまり、伐採してから5年後に幹と枝を合わせた上空からの投影面積が20平米の中に80%に回復することが見込まれなければ補助金の対象にはなりませんよということになったわけであります。
しかしながら、5年後の密度をイメージしながら伐採の上限を決めて間伐作業を進めるなどということが果たして可能なのでしょうか。また、現在、樹冠疎密度が80%に満たないものが、5年後に80%に回復するなんていうことは到底考えにくいという現場サイドの声もあります。
そうなりますと、間伐作業が進んでいる地域においては今後補助が受けられないということになってしまいます。森林の適正なる密度管理を目的にした基準であるということは理解できますが、実にわかりにくい条件であります。
樹木というのは日光の当たりぐあいによって幹の太り方は千差万別です。また、谷や沢の状況によっても成長の度合いはまちまちです。よく50年生、60年生の木は伐期を迎えているという言い方をしますが、そもそも、木というのは、建築材、建具材、家具材、土木用材、合板材、もっといえば楽器、民芸品、玩具など、さまざまな用途があるわけです。土木用材などは20年生あたりが適齢期ですし、樹齢100年ぐらいの樹木に育って初めて利用価値が生まれるものもあります。そこが木の奥深さでもありますし、人間の生活に密着しているゆえんでもあります。
ですから、20年から60年で皆伐し更新する場所もあれば、100年生以上まで育てる場所もあってよいと思います。そのことからすると、伐期の目標設定によって成立する樹木の本数は一定ではなくてもよいと考えます。
ぜひとも、適正な森林の管理や間伐などの森林整備を推進するためにもわかりやすい基準にしていただきたいこと、そして補助金の交付を希望する方々への説明会や研修会をできる限り開催していただくことを希望するわけですが、林務部長の御見解をお聞かせください。
◎林務部長(塩原豊)
森林整備についての御質問をいただきました。順次お答えをいたします。
初めに、道路沿線の景観整備についてのお尋ねですが、森林景観の整備を目的とした事業といたしましては、従来は、県単独事業であります間伐対策事業や、森林づくり県民税活用事業であります、みんなで支える里山整備事業におきまして、間伐と一体的に実施する場合には景観整備を目的としたやぶ刈り等を補助対象としてまいりました。
これに加えまして、本年度は、ふるさと信州寄付金を活用したふるさと信州森林リフレッシュ事業におきまして森林景観整備や通学路の安全確保を目的とした単独のやぶ刈りについて補助することとしておりまして、事業の充実を図ってまいりました。
これらの事業につきましては、9月末現在で本年度事業の執行率が83%となっておりますが、さらに御活用いただける予算ございますので、引き続き事業の活用を周知し景観整備に取り組んでまいりたいと考えております。
次に、補助金額の増額等についてのお尋ねでございますが、ふるさと信州森林リフレッシュ事業につきましては、森林景観整備等のためのやぶ刈りを対象としており、大木の伐採は対象としないこととして補助金額を設定しております。
道路沿線で大木を伐採する場合には、通行車両や電線等に支障がないようにクレーン車を使うなど通常に比べて経費がかかることがございます。こうした作業につきましては、みんなで支える里山整備事業において、間伐と一体的に実施する場合には附帯事業として実際にかかった経費に対する補助を行っておりますので、引き続き地域の皆様の御要望をお聞きし、対応してまいります。
次に、信州の森林づくり事業の補助要件等についてのお尋ねですが、議員御指摘の樹冠疎密度につきましては、間伐の伐採限度の基準として、国の示す適正な間伐の考え方に沿っておおむね5年後には80%まで見込まれるものを補助対象としたものでございます。
間伐は混み合った森林において立木の一部を取り除く作業でありまして、適正な森林の状態を維持するために、5年後には立木の枝が隣の木の枝に触れ合う程度に回復するよう施業を行うことを趣旨としたものでございます。
しかしながら、5年後の将来の見込みを基準としたことで林業事業体の皆様からはわかりにくいという御意見をいただいていることは事実でございまして、今後、樹冠疎密度に関する規定がよりわかりやすい運用となるよう検討してまいります。
また、間伐が進み、立木の本数が少なくなった森林については補助対象としておりませんが、育成複層林の造成や人工林の広葉樹林化を目的とした伐採については更新伐として補助対象としております。
これらの造林補助制度を十分に御理解いただくために説明会等を実施し、関係の皆様に周知してまいります。
以上でございます。
◆依田明善
御答弁いただきました。ぜひとも、現場が混乱しないようなわかりやすい基準を設けていただき、林業従事者のやる気を醸成していただければと思います。
次に、補助金申請についてですが、雪の多い季節は完了検査も困難となり、それが今回の問題の一因にもなっているわけです。そこで、従来からある事前調査という方法をもっと活用してはいかがでしょうか。
通常は仕事が完了し申請書を上げるわけですが、補助金の申請者が書面により要求をすれば雪が降る前に現場の完了検査を済ませ、その後で書類を整理し申請するというやり方ができるわけです。今回はその制度が生かされていなかったということだと思いますが、雪の多い地域に対して今後どのような工夫を凝らし対応されていくのか。林務部長にお尋ねをいたします。
日本の国土は、3分の2、約66%を森林が占めております。長野県ともなりますと実に80%が森林です。これら森林の持つ機能は多面的であり、木材の生産のみならず、山地の防災、減災、水源の涵養、保健休養などさまざまです。
しかも、かつて全国において林業が盛んだったころは、若者を初め多くの人々が林業に従事し、山での作業を行っておりました。これは、突き詰めれば国土を外敵から守るということにもつながっていたと思います。
昔は外国資本が水源林を買いあさるなどという話は皆無でしたし、そんな事態を許さない監視の目が国土の3分の2という広大な森林の中に向けられていたわけです。ところが、木材の輸入自由化等によって外国の木材が安く大量に出回るようになり、林業は壊滅的なダメージを受けてしまいました。山を所有している人々でさえ森林整備の意欲をなくし、多くの山が荒れてしまったわけであります。
人は水がなければ生きていかれません。命の水を育む水源林を整備することは人々の生命を守ることにもつながります。里山周辺の森林整備が重要であることはもとより、人里から遠く離れた奥山で人知れず命の水を育んでいる水源林の整備も重要な課題と考えます。手入れの行き届いていない貴重な水源林を整備していくためにはどのような方法があるのか。林務部長にお尋ねをいたします。
さきの農政林務委員会の現地調査において、地元議員として参加をし、佐久地方事務所の林務課での取り組みを拝見いたしました。樹木の中心が若干空洞になっているといった理由で通常は現場等に廃棄されてしまっていた100年生のカラマツの大木を有効利用する取り組みであります。実は、製材する際に私も終日現場に立ち会ったわけですが、非常に良質の木材をひき出すことができました。建築材はおろか、建具材にも十分に対応できる高品質のものであり、高値で売買が可能な付加価値の高いものでありました。
こういった県産材の新しい技術開発や用途開発への取り組みもぜひ後押ししていただきたいわけですが、林務部長のお考えをお聞かせください。
また、今後の森林整備を考える上では、充実してきた森林資源を木材として有効活用することにより産業としての林業が再生、自立していくといった形が理想であると考えます。
林務部長は、昨年度、林業先進国であるオーストリアを訪問し、さまざまな事例を調査されたと聞いておりますが、オーストリアから何を学ぶべきなのか。また、県としてそれを今後どのように林業再生へとつなげていくのか。実際に現地を見てこられた林務部長のお考えをお聞かせください。
◎林務部長(塩原豊)
まず、雪の多い地域の補助金申請についてのお尋ねですが、積雪の時期への対応といたしまして、申請者からの要請により申請前に現地調査を行うことができますが、この制度がこれまで十分活用されていない状況がありました。
今後、制度内容をさらに周知するとともに、申請者から早期に事前計画書を提出いただくことを徹底し、あらかじめ工期等を把握した上で、現地作業の完了後、積雪前に速やかに現地調査を実施するなど、事前調査制度の効率的な活用を進めてまいります。
また、造林関係の補助申請は年度末に申請が集中する傾向にありまして、積雪の時期と重なりますと現地調査が困難な場合がありますことから、このたびの大北森林組合の補助金不適正受給問題でも不適正な申請が行われた一因となったところでございます。
このため、事業体の皆様からの御意見をお聞きしながら、積雪の時期の申請のあり方についても検討してまいります。
こうした取り組みを通じて、多雪地帯におきましても適正かつ円滑な造林関係補助事業の執行に努めてまいります。
次に、水源林の整備についてのお尋ねでありますが、森林は、国土の保全、水源の涵養、木材の生産等の多面的な機能の発揮によりまして県民の生活に大きく貢献しております。このことから、里山の整備と同様に、奥山の水源林等の整備も重要であると認識しております。
しかし、奥山での作業は費用がかさむために整備がおくれている状況にあります。そこで、本年度、新たな事業として、企業局からの繰入金を活用した、豊かな水を育む森林づくり推進事業を創設いたしまして、長野県ふるさとの森林づくり条例に基づき、森林の公益機能を高度に発揮させるために指定した森林整備保全重点地域におきまして水源林保全のための整備を支援しております。
具体的には、ダム上流等にあります水源林で実施される保育間伐について、通常の造林補助金では不足する経費に対しヘクタール当たり8万円を上限として上乗せ補助をするものでございます。今年度は、森林整備保全重点地域に指定されております塩尻市楢川地区、木祖村、根羽村の3カ所で実施し、水源地域の森林の多面的機能がしっかり発揮できるよう努めてまいります。
次に、県産材の高付加価値化や新技術、新用途開発についてのお尋ねですが、全国有数のカラマツ地帯であります佐久地域において高付加価値化の取り組みは、今後、カラマツ林に限らず増加してまいります、年数を重ねた太い木材が持っております潜在的な価値を引き出し、森林所有者に利益を還元する上でも重要な取り組みであると認識しております。
この取り組みに対しまして、県といたしましては、林業総合センターにおける技術支援や首都圏等への販売促進に対して支援を行いますとともに、その成果や手法を県内全体に普及してまいります。
また、県産材の新技術、新用途開発につきましては、信州の木先進的利用加速化事業によりまして、これまで木材以外の資材や外材等が利用されてきた分野において県産材への転換を進めるため、信州型接着重ね梁や新たな木製のしょうゆ・みそおけの開発、木製の道路遮音壁などさまざまな分野での開発に対して支援を行い、県産材の新たな利用を促進することで林業・木材産業が地域を支える産業として成長するよう積極的に取り組んでまいります。
次に、オーストリア林業と本県の林業再生についてのお尋ねですが、オーストリアでは、約20年間をかけて製材工場の大規模化や木質バイオマスエネルギーの普及に取り組んだ結果、木材需要が大幅に拡大し、これにあわせて山側の路網整備や機械化が進み、私が訪問させていただきました現場では、本県の森林と同じような傾斜の地形でありながら、木材の伐採、搬出は本県の約10倍の生産性が確保されて、収益性が非常に高い林業構造が確立されていると感じました。
このように、木材需要の拡大を契機として林業生産システムの革新に成功した事例は、まさに本県が林業県として今後進むべき方向を示唆しているものでありまして、導入できる技術や仕組みは積極的に学んでいくべきであると考えております。
このため、県では、オーストリアの林業技術を紹介するフォーラムの開催や現地における研修への県内技術者の派遣等を行うことによりまして林業者の意識改革や技術向上を促進してまいります。
また、現在取り組んでおります信州F・POWERプロジェクトを契機に、大規模な木材需要に対応できるオーストリアのような効率的な林業生産システムの導入を目指して林内路網の整備や機械化等への支援を一層強化し、生産性や収益性の高い林業を実現してまいりたいと考えております。
以上でございます。
◆依田明善
御答弁いただきました。
森林所有者の皆さんと話をしておりますと、昔はよかったという思い出話に花が咲きますが、現在の森林価値については極端に過小評価している方がまだまだ多いように思います。この消極的な意識を転換させるためにも県の役目は極めて重要だと思います。
ふんどしを締め直し、しっかりと取り組んでいただくことを切にお願い申し上げ、一切の質問を終わります。